#ジャニオタと卒論

卒業論文【そつぎょうろんぶん】:卒業論文(そつぎょうろんぶん)は、大学短期大学を含む)および高等専門学校に所属する主に最終学年の学生が、その最終学年の1年間を通して行う「卒業研究の成果として提出する論文」のことである(期間や、方法が異なる場合もある)。一部の高等学校中学校にも科しているところがある。略称は、卒論(そつろん)。

(出典:Wikipedia

 

突然ですが、過去卒論を書いた人は何のテーマで書きましたか?まだ書いてなくてこれからだよ~という人はどんなテーマで書きたいですか?

私は大学3年の秋学期、漠然と「エンタメについて書きたいな」と思っていました。正直エンタメと関係ある学部かと言われたらそんなことはないけど、自分の興味のあるジャンルじゃないと書ける気がしなかったから。

テーマが決まるまで紆余曲折あったのですが、最終的に

【アイドル文化の発展におけるアイドルと現実の異性への願望の違いについて】

という卒論を書きました。そしてこの卒論で扱ったアイドルは「ジャニーズ」。Twitterでアンケートを募ったところ私が思った以上に回答をいただけたので(ありがとうございました!)、 最終的にどんな卒論になったのか公開しようと思って書いております(といいつつもう卒業してから結構経ってしまった)

語尾とかちょっと読みやすい感じに変えて、さすがに卒論に書けへんやろ~みたいなオタク丸出しな文章とかも織り交ぜつつ、という感じのエントリーです。長くなってしまったのでめっちゃ暇という方はぜひ読んでください~~~

 

まずTwitterで募ったアンケートに回答してくださった170名以上(!!)のみなさまありがとうございました!回答読むだけでめちゃくちゃに楽しくてジャニ゛オ゛タ゛最゛高゛~~~~~!となる。いまも元気ないとき時々読み返しては楽しくなっています。

 

(以下すべて私がアンケートから分析して書いたものであり、一個人の解釈です。こうに決まってる!と断定したり誰かを傷つけたり、そうでない人を否定する意図は一切ありません)

 

 

はじめに

卒論を書くとき、最初は日本のアイドル文化の特異性を海外と比較したものを書こうとしていました。アイドル文化はアジア圏特有の部分が多くて、なんでアジアで流行したんだろう?というのを書いてみようかな~みたいなふわっとした感じ。でも例えばK-POPとJ-POPの何が違うのか論理的に説明できるかと言われたら正直難しいな……と頓挫して、そこで思いついたのが「リア恋」という概念を最近よく目にするけど、実際私生活で出会うような異性とアイドルに対して抱く感情ってどんな違いがあるんだろう?というもの。

最近はアイドルを取り巻く環境も変化している。やっぱりSNSがその最たるもので(ジャニーズはほとんどSNSをやっていないとはいえ)、「アイドル」という存在って、昔と比べるとすごく身近に感じられるようになった。アイドルは「偶像」だなんて言われていたけれど、AKB48に端を発した「会いにに行ける」系アイドルとか、自分に近しい人たちとして振る舞うアイドルが台頭してきたのってなぜなんだろう?アイドルと身近な異性、それって何が違って、どこに魅力を感じてアイドルを応援しているんだろう?そんな風に考えて、実際の恋愛においての異性とアイドルへの感情の違いや、アイドル同士の関係性に客体であるファンたちはどのようなものを求めているのかについて知って、アイドル文化の発展について考えるきっかけにしたいな~という気持ちで卒論テーマを決めました。

 

背景

アイドル戦国時代の中ジャニーズを選んだのは私がジャニオタなのはもちろんとして、男性アイドルと言われてイメージしやすいし幅広く知名度があるから。そしてファン層も多岐に渡るので、いろんな回答が得られるかな~と思ったからです。

卒論の背景で「今回の研究で扱う「ジャニーズ」は、日本の芸能プロダクションであるジャニーズ事務所に所属するアイドルを指している。」って書いたの一生のネタにしたい。

 

先行研究

そもそも「日本では古くから芸術を身に着ける過程の中にいる人(弟子)の成長を応援し、未熟な状態から一人前になるプロセスを楽しむ文化がある」(Oksana, 2018)*1、らしい。

例えば能や歌舞伎の若手俳優の公演、若い力士の取組とか。ジャニーズJr.とか候補生、研究生と言われる人たちを応援している人は今も多くいて、その所謂「候補生」たちの未熟さこそが魅力、という言説は多く見受けられると思う。まさかそれが歌舞伎とか相撲とかから脈々と続く日本特有の文化です!と言われるとは思ってもなくて目から鱗だった。

しかし、実際の恋愛で人の「未熟さ」を求めることはそうないと思う。

大学生および成人に行ったアンケートでは、「男らしさ」として、包容力や頼りがい、たくましさ、強さなど、「女性らしさ」としては上品、気遣い、繊細さなど(高井・岡野, 2009)*2を求めていることが分かる。つまり、アイドルに求めてる「未熟さ」とは正反対の「成熟」した部分を現実の異性に要求しているわけです。

それに加えて、「近年,特に2000年代以降に人気を博している男性アイドルグループを映すメディアでは,異性愛のメッセージと並んでメンバー同士の強い友情や信頼関係が頻繁に表現される。シンデレラ的な「女性を救い上げる男性」イコール「王子様」、「選ばれる女性」というジェンダー役割は変質して,男性アイドル像(仮想空間が提供する偶像)は,女性ファンにとってアイドルを身近な自分の好みと合致させやすい「キャラクター」に変質すると同時に,自分とは異性愛関係を結べない「偶像」としても認識構築させている。」(西条・木内・植田, 2016,p.207)*3という研究もある。

これは後述しますが、アンケートでも「メンバー同士の関係性」をアイドル特有の魅力として挙げている人は多かった。「リア恋」という切り口からこのテーマを決めたわけですが、アイドルには恋愛対象としての面だけではなくて「偶像」として自分の理想を反映させることが出来る存在であり、「男同士の絆」を楽しむ対象としての存在でもあるということも示されているのです。

 「男性同士の絆」「メンバー同士の関係性」という点では、ファンとアイドルの関係性という疑似恋愛関係の「当事者」から、アイドル同士の関係性の「観察者」にファン文化が変容した(辻,2007)*4という論文や、女性ファンはアイドル同士の関係性を想像して語ることを欲望している(陳,2014)*5という論文があります。

ジャニオタは特にシンメなど男性同士・アイドル同士の関係性にエンターテインメントとしての魅力を感じている人も多くいるなと思います。

 

上記のような先行研究から、アイドルにファンが求めるものがより具体的に分かれば、なぜ日本でアイドル文化が発展しているのかを理解することが出来るのではないかと考えました。そのため、なぜアイドルファンはアイドルを好きになるのか、またアイドルとアイドル以外の異性に向ける感情にどのような違いがあるのか、加えてアイドル同士の関係性がファンにとってどのようなものであるのかについて調査しました。

 

アイドルについての論文なんてそんなにないのでは?と思っていたけど思った以上にいろんな研究があって、先行研究だけでとてもたのしかった……。

 

 

調査方法

Twitterを介して、ジャニーズのファン層のアカウントにアンケートを配布(RT機能などを使用し拡散)し、最終的に174名のジャニーズファンの女性から回答を得ることができました(ありがとうございました……!)

 以下、アンケート内容です。

アンケート内容

1. 年齢

2. 現在応援しているアイドル

3. あなたが現在応援しているアイドルを好きになったきっかけを教えてください

4. そのきっかけをアイドル以外の異性に抱き、好きになったことはありますか

5. 異性のアイドルとそれ以外の異性で、魅力を感じるところに違いはありますか。あれば具体的に教えてください。

6. 好きな男性アイドルが女性と会話していたり共演していたりすることに嫉妬することはありますか。また、あれば理由を教えてください

7. 男性アイドル同士の絡み(曲中でのボディタッチやプライベートでの交流など)に魅力を感じたことはありますか。あれば理由を教えてください。

回答者の内訳

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担当グループは複数回答してくださった方も多かったのですが、集計の都合上最初に記載されていたグループのみとしています。(複数回答を上手くグラフにする方法をご存じのかたが居たら教えてください……)

アンケートを配布したアカウントがSnowMan、TravisJapan、MADEを中心にツイートしているため、回答者様の割合もそれに寄っています。卒論自体には全然関係ないけど、「こことここ掛け持ちするきっかけってなんだろう?」とか考えたりしてめちゃくちゃ楽しかった!からこそちゃんとグラフにしたかった!(笑)

 

本論

(1)アイドルとそれ以外の男性(以下「異性」とする)に抱く感情の違い

アンケートではまず「アイドルを好きになったきっかけ」「異性に感じる魅力とアイドルに感じる魅力の違い」について質問しました。

回答から、好きになるきっかけは大きく分けて3つ。

①ビジュアル性

②アイドル性

人間性

 ①ビジュアル性

言葉のまま、「顔がかっこいい」とか「背が高い」とか、あとは「笑顔が素敵」など、視覚情報から得られる魅力をビジュアル性としています。好きになるきっかけの中でも多くを占めていたし、アイドルに限らず異性に感じる魅力の中でも見られました。

ファーストインプレッションはテレビでも生身でもやっぱりビジュアルが一番最初に目に入ってくるし、そういう意味ではアイドルも異性もスタートラインは一緒なんだなと思いました。

 

②アイドル性

「アイドル性」と「ビジュアル性」の線引きは難しいのだけど、歌やダンスなどパフォーマンス面での魅力や、インタビューの回答などから伺えるアイドルの考え方やふるまいに魅力を感じているところを「アイドル性」としました。

回答者にJr.のオタクが多かったので、先輩のバックについているところで目を惹かれてファンになったという回答も多くありました。メインではないところで人の目を惹くこともそのアイドルが持つ「アイドル性」なのでは?と解釈して、この落ち方もアイドル性にカテゴライズ。

パフォーマンス面に魅力を感じるのはアイドル(とかアーティスト)特有で、なかなか異性を好きになるきっかけにはならない。

 

人間性

アイドルとしての姿だけではなく、そのアイドルの素の部分に魅力を感じているという回答は「人間性」としています。

例えば、ジャニーズアイドルは10代から事務所に所属する人がほとんどで、ファンがその成長を追うことが出来る。その成長度合い・努力している姿に魅力を感じるという回答は多かったです。前述した「成長過程」の魅力。

それ以外にも、アイドル同士の関わりによってみられるそのアイドルの性格や仲の良さといった、アイドルとしての振る舞い以外の等身大な部分に魅力を感じているファンも多いことが分かりました。アイドルの素の部分に魅力を感じるという点については後述します。

 

好きになったきっかけ、上記の3つにカテゴライズ出来ないものももちろんたくさんあって、一番分類に悩んだのは「友人・家族の影響」。影響されて、結局どこに落ちたのかな~というのが気になる。

あとジャニーズJr.チャンネルきっかけはとても多かった。SNS時代、手軽に無料で観られるコンテンツが充実することに意味があるなと感じた。

興味深かった回答は他にもいろいろ。

自分に近いものを感じて、なんとなく他人だと思えなかった。自分と似ている。

自分と似ているのに決定的に違う部分があったり、真逆の部分があって、そこに惹かれたし、そういうところが最高に面白いと思う。理解できないところ。

理解できなくて人として面白い・興味深いと感じるのはなんか分かる。

消去法

これほんとに何を消去した結果なのかめちゃくちゃに気になる

先輩に恋のABOのCDを聴くように押し付けられ、義理で聴いてるうちに好きになった

後輩にCDを押し付けることに意味は、ある(過度な押し付けはNO)

曲堕ち。シャブのせいで脳が焼かれた。

気が付いたら手が再生ボタンを勝手に押してる曲、ありますよね

 

 

「異性に感じる魅力とアイドルに感じる魅力の違い」の回答からも、上記のようなアイドルのパフォーマンスや笑顔など、「夢を見せてくれる」点が異性とは大きく異なっていることが分かります。逆に、異性には居心地の良さや親しみやすさといった人柄や、距離が近いからこその自分との性格の相性、関係性の構築によって自分への見返りがあることが期待できる点が魅力であるという回答も。

「見返り」、確かに生身の人間だけど私たちと「ファンとアイドル」以上の関係性を構築出来ないアイドル相手だと難しい。「見返り」をなんとするかにもよりますが、「〇〇してあげたから○○してほしい」というのはアイドル相手には要求出来ないよな~と。

 

この質問で印象に残った回答もたくさん。

現実の異性がキラキラしてたらムカついて張り倒したくなる

そもそもアイドルは「応援したいかどうか」で判断しているので、俗に言う好きか嫌いかじゃないと思う

ボタンをかけ違えていることを可愛いと思うか思わないか

 私はこの回答が詩的ですごく好き。ものすごく的確にアイドルの持つ「不完全さ」「未熟さ」に惹かれる気持ちが表されているな、と思います。

アイドルは理想を追いかけるもの、身近な異性は現実を受け入れるもの

「理想の投影」が許される範囲の違い、だなと。

キラキラ感。もう存在がラメです。

「存在がラメ」、パワーワードすぎる

3次元の男性が自身をコンテンツ化するところに魅力を感じる。オリジナルの自身とコンテンツ化した自身の境界がなくなっていそうなところにそそられる。

これ、大なり小なり実生活でも他人にいいように見られたくて自分自身をコントロールする部分はアイドルでもそうでなくてもあると思うのですが、その度合いの差がアイドルとそうでない人の大きな違いだな!ととても感じた回答です。

無責任な愛を一方的に注ぐことが前提として許可されていることが魅力です

前述の「見返り」を求めるか求めないかがここにつながっている感じ。アイドル相手だと「無責任」かつ「一方的」なので、相手からどう思われているか、相手がどうしたいかは度外視される。

 

上記の2つの質問から、アイドルと異性の魅力の違いは「コンテンツ化された存在であるかどうか」が大きいのではないかと考えました。

アイドルが自身を商品としてプロデュースし、パフォーマンスや発言をコントロールしていることと同時に、消費者であるファンたちは「アイドル」=「コンテンツ」、「商品」であると理解して、その非現実感こそが実際に日常生活で出会う異性とは異なる魅力であると感じているのではないでしょうか。

異性とアイドルの魅力の違いについて、非現実感がある(都合の悪い現実を無視できる)ことやファンに見せる表面上の部分だけがアイドルとしてのすべてであることなどが回答としてありましたが、異性との関わりにおいては表面上の性格だけでは関係は構築出来ません。けれど、表面しかしらなくても「アイドル」と「ファン」という関係になれる。

また、アイドルたち自身の生活と自分自身の生活などとは一切関係ないため、自分の感情や生活に相手が左右されないところに安心を感じるという回答もあり、「自分とは直接的な関係のないもの」「一つのパッケージ」としてアイドルに魅力を見出していることが分かります。

 

「アイドルが女性と会話していたり共演していたりすることに嫉妬することはあるか」という質問からは、「コンテンツ」外、つまり作られていない素の部分を恋愛に求めているかどうかということがよりはっきり分かります。

嫉妬することがあるという回答は全回答の中で37%

その中で理由として多かったものが、「自分の知らない部分を知れる相手が羨ましい」というもの。ファンである以上、アイドルとしての面しか知ることは出来ないけれど、恋愛においてはそのようなアイドル以外の面こそが必要な要素。「コンテンツ」部分しか知らずに済むことがアイドルの魅力であると同時に、アイドルの「コンテンツ」部分しか知ることが出来ないという距離感こそがアイドルと現実の恋愛が結びつかず、彼らの非現実感を助長しているのではないでしょうか。

 

(2)男性アイドル同士の関係性

先行研究でも触れた、「男性同士の絆」についても質問しました。

「男性アイドル同士の絡み(曲中でのボディタッチやプライベートでの交流など)に魅力を感じたことはありますか」という質問に対して、魅力を感じたことがあるという回答は全回答の中で87.5%であり、多くのファンがアイドル同士の関係性に魅力を感じていること分かります。実際にどのような点に魅力を感じているのかという回答からは、(1)でも触れたアイドルの「コンテンツ化」やホモソーシャルへの憧れなどが分かりました。

 

まず「コンテンツ化」との繋がりでは、

アイドル同士の関わりから彼らの素の部分を感じることが出来る

という回答や

ファンが喜ぶことを把握して演出として行っているところが良い

という回答が。この二つの回答から、アイドルのコンテンツ部分に魅力を感じながらも、素の部分を知りたいとも感じていることが分かります。

アイドル同士の関わりによって、身近な人との接し方や、プライベートのエピソードによって非現実的であったアイドルの現実面を知れたり想像したりできるので、ファンからの人気を高めているのではないかと分析しました。

以下の回答もそのような需要の現れかなと思います。

プライベートでご飯に行っていたり、旅行に行っているエピソードを聞くと、自分と変わらない人間であることを実感させられるため。

 

 

次に、ホモソーシャルへの憧れについて。

そもそもホモソーシャルとは恋愛や性的な結びつきをもたない同性間の結びつきを指す語。*6(今回は男性間での結びつきのみを指しています。)

回答の中には、「男の友情」という部分に惹かれるというものが多くあり、その中に「男性同士の関係性に羨ましさや憧れ、好奇心がある」というものがありました。

あと性別の違いからくる「男の子のことが分からない」って気持ちが男性アイドル同士の絡みを見てると憧れや好奇心に繋がっていくのかもです。

友達とも家族とも違い、仲間でありライバルである関係はどうあがいてもわたしにはわからないものなので、そういう場面を目にしたとき、彼らにしかわからない同じ温度の気持ちがあるんだろうなぁと羨ましくもなります。

女性のアイドルファンは異性であるがゆえにホモソーシャルについて完全に理解することは出来ませんが、アイドル同士の関係を見ることによってそれを疑似的に体感することが出来る。知りたいという欲求を満たしてくれる存在ということなのかなと考えました。

同時に、ホモソーシャルに安心感を得て、それを魅力であると感じる点もあると考えられます。(1)で触れたように、アイドルは自分とかかわりのない存在であるという点から、自分とは「異性」ではなく「アイドルとファン」としてしか関係性が構築できないと同時に、アイドルをしている一人間に自分が客体化(恋愛感情を抱かれることなど)されることはまずありません。ましてホモソーシャルにおいて女性はその枠外にあり、絶対に客体化されてその関係性に参入するということはないため、安心感を得ているファンも多いのではないでしょうか。

 

また、回答にあった「ブロマンスに魅力を感じる」という言葉。

「ブロマンス」とは「Brother(ブラザー)」と「Romance(ロマンス)」という言葉を掛け合わせた、強い絆で結ばれた男性同士の関係性を表す造語*7

意味としては上記のホモソーシャルと近いですが、「強い絆」や「兄弟のような友情」「ロマンス」といったようにホモソーシャル以上の親密さを示すことが多いようです。

ジャニーズアイドルの中でブロマンスを感じさせる関係性として回答に多く上がったものが「シンメ」。二人で共にさまざまな経験を乗り越えてきたことや積み上げてきた時間によってより濃密になる関係性が魅力的であるという回答もあり、シンメという関係性がアイドル同士の絆を表す言葉として使われていることが分かります。

ジャニオタ・シンメ・スキの理由はここにあったのかもしれない。

 

この質問には以下のような回答もありました。

けれど、無意識的にメンバー同士の関係性を消費しているとは感じます。

「消費」してしまうこと、なかなか難しい。消費を前提としている部分も大いにあるけれど、なんでもかんでも消費していいわけではないということを胸に刻んでいたい……

仲が良ければ良いほど仕事(すなわちアイドル)もスムーズで素晴らしいものになると考えているから。

職場の仲は悪いより良い方がいい、マジ(迫真)

メンバー同士が仲がいいことがうかがえると、ライバルであっても人間関係が悪くなっているわけではないと分かり安心できる

バチバチしているのはあくまで「アイドル」として、というのが仕事と私生活をちゃんと分けている意識を感じて良いですね……

 

(めちゃくちゃに余談ですが『「シンメ」とはシンメトリー(左右対称)の略であり、言葉の通りダンスの立ち位置において左右対称の場所で踊るコンビのことを指す。ただ立ち位置が左右対称であるだけでなく、その二人がセットで扱われることも多く、「剛健コンビ(V6森田剛三宅健)」や「ふまけん(Sexy Zone菊池風磨中島健人)」のようにコンビ名で呼ばれ、ジャニーズファンの中でも特別な関係性として扱われる。』と卒論内には記述しています。こういう時に例として挙げるべきシンメを選ぶのがめちゃくちゃ難しかった……!)

 

(3)アイドルファンとアイドルの需要と供給

(1)(2)より、アイドルファンはアイドルが「コンテンツ」である部分に魅力を感じる点が大きいことが分かりました。

実際にそのような需要から生まれたのが「わちゃわちゃ」なのでは?と考えます。

「わちゃわちゃ」というのはアイドル同士が仲良さそうにしている状況(ハグや密着している写真など、ボディタッチが多い)を指す言葉であり、近年になって雑誌の見出しやアイドルのプロモーションなどで多くみられるようになった印象です。

上の2ツイートのように販促に使用していることから「わちゃわちゃ感」がファン層に求められていて、それが実際に購買につながっているんだなと推測できます。

アイドルファンが「仲良しなアイドル像」を求めている風潮からそのような表現が浸透していると考えていて、その「仲良しなアイドル像」とは、アイドルとしてコンサートや歌番組で見せるパフォーマンスとは別に、よりプライベートに近いリアルな彼らに仲良くあってほしいというファンの理想でもあるのかなと。

 

そして「リア恋」についても言及したいと思います。「リア恋枠」など近年特によく聞くようになって、実際わたしが卒論のテーマを決めるきっかけにもなった概念。

「リアルに恋している」ことを指し、アイドルを恋愛対象として見ていることを示す言葉、だそう。*8

アイドルが雑誌などで恋愛観を語っている記事などで、より現実の異性に近い(作られている感のない)回答などがあると、ファンはその回答からアイドルのリアルな恋愛経験や考え方などを想像することができ、そこに魅力を感じる、ということだと解釈しています。

「リア恋」は上記の「わちゃわちゃ」とは対照的であり、アイドル同士の関係性ではなく、アイドル対自分の関係を想起させるようなアイドル像への需要もあることが分かります。

アイドルと付き合ったら実際どんなふうなんだろうという妄想を繰り広げることが「虚妄」と呼ばれて流行しているのもその一端ですよね(虚妄って虚像で妄想していることの略なのかな~。辞書だと「うそいつわり」と出てきてさすがにそれは悲しい!!となったよ)。

 

上記2点や(1)(2)で触れた点から、アイドルファンは「アイドル」というコンテンツの持つ偶像性現実性の双方に魅力を感じていると考察しました。

アイドルの偶像性はパフォーマンスや演技、ビジュアルなど「アイドル」らしさを押し出した一面であり、現実性は偶像性から離れた「ひとりの人間」としての一面、と定義します。だけど、その現実性はファンが想像して作り上げた別の種類の偶像であるとも言えるのかもしれません。

 

まとめ

本論から、アイドル固有の魅力はアイドルが「アイドル」というコンテンツとして成り立ち、見たいところだけを見せてくれる理想の具現化のような存在であるところであると考えました。

本論(3)でも触れたように、ファンは素の彼らを知りたいという欲求も持っていて、「現実世界の異性のようなアイドル」を求めている部分もあるけれど、「こうあってほしい」という理想を抱いているという点では、様々な欲求や幻想をよりリアルに具現化してくれる存在としてアイドルを応援しているのではないでしょうか。

それぞれのファンが持つさまざまな種類の願望をアイドルに投影することで、それぞれのファンにとっての「アイドル」になっていく、と考えられます。

 

それ以外にも、苦労したエピソードやリハーサル風景、日常生活に至るまで、アイドルが提供するものはポジティブなものばかりではありません。

失敗して泣いているところや、悔しさを露わにするところ、逆に成功して喜ぶところなど、応援することを通して彼らの人生を一緒に追体験出来るところがあると思います。

ただ楽しさを得られるだけでなく、自分の人生ではなかなか体験出来ないような経験を一緒に味わえるところもアイドルの魅力の一つではないでしょうか。アイドルを応援していて楽しいことばかりではないと言うファンも多いけれど、それでも応援を通してファン自身も様々なことを考え、経験することが出来るという点からアイドル文化は愛されていると考えられます。

 

以上から、日本でアイドル文化が発展した理由は、アイドルファンがもつそれぞれの理想を反映する「アイドル」というというコンテンツの特異性や、アイドルの活動からファンも多様な経験を得ることが出来る点であると結論付けました。

 

 

 

 

以上、卒論のためというより途中からただ自分が楽しいだけのアンケート集計になってしまいましたが、みなさまのご協力のおかげで無事書き終え、卒業できました(オタク丸出しの卒論を読んでくれた先生ありがとう)。

そしてこれから卒論を書く予定の人の参考になれば幸いです。ならないか。

めちゃくちゃ長くなりましたが読んでくださった方、アンケートに協力してくださった方、ありがとうございました!

 

 

何かあればマシュマロにお願いします

marshmallow-qa.com

 

*1:Kakin Oksana「日本社会における「未熟さ」の商品化 : ジャニーズタレントのファン行動を読み解く」『生活社会科学研究』お茶の水女子大学生活社会科学研究会,2018,pp.51-63

*2:高井範子、岡野孝治「ジェンダー意識に関する検討:男性性・女性性を中心にして」『太成学院大学紀要』学校法人 天満学園 太成学院大学,2009,pp.61-73

*3:西条昇、木内英太、植田 康孝「アイドルが生息する「現実空間」と「仮想空間」の二重構造 : 「キャラクター」と「偶像」の合致と乖離」『江戸川大学紀要』江戸川大学,2016,pp.199-258

*4:辻泉「関係性の楽園/地獄――ジャニーズ系アイドルをめぐるファンたちのコミュニケーション」玉川博章等編『それぞれのファン研究 I am a fan』風塵社,pp.243-289

*5:陳怡禎「男性アイドルの関係性に「友情」を求める女性たち : 台湾におけるジャニーズ・ファンを事例として」『情報学研究 : 学環 : 東京大学大学院情報学環紀要86』東京大学,2014,pp.159-173

*6:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%A2%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB#:~:text=%E3%83%9B%E3%83%A2%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%20(%E8%8B%B1%3A%20homosocial),%E3%81%99%E3%82%8B%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6%E3%81%AE%E7%94%A8%E8%AA%9E%E3%80%82

*7:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B9#:~:text=%E3%83%96%E3%83%AD%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B9%EF%BC%88%E8%8B%B1%E8%AA%9E%3A%20Bromance%EF%BC%89%E3%81%A8,%E3%81%AE%E4%B8%80%E7%A8%AE%E3%81%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%82

*8:https://numan.tokyo/words/OWIlN#:~:text=%E3%80%8C%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%82%B3%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E3%80%8C,%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%92%E3%81%95%E3%81%99%E3%80%82